靴下屋を廃業したとき

紳士ソックスやスクールソックスを製造していました。



二十一世紀を目前にした頃、中国製品の輸入拡大から靴下業界にも再編の波が押し寄せて、私の会社は経営不振に陥り自主廃業を決断しました。この苦境を乗り越えることができたでしょうか。

※ところで、一般的な靴下は、メリヤス(ニット)製品であり、メリヤス編み機の分類の中、丸編み靴下編み機で製造します。
この靴下編み機は、さらにシングルシリンダー機とダブルシリンダー機とに分かれます。
私が生産していた靴下は、主に後者のダブルシリンダー機によるもので、当業者以外では初見と思うこんなメリヤス針が使われています。



このメリヤス針を傷めないで挟めるのがニードルペンチです。
マイナスドライバーとしても使う。



もう使わなくなったペンチだけども、特別なものとしてなかなか捨てられません。



メリヤス(莫大小と書く)と言えば肌着、ニットと言えばセーターのイメージが浮かびます。どこで線引きするのか呼び名も意味も違いも不明です。けれど靴下にはメリヤスが似合います。そんな気がします。


話を元に戻すと、廃業を決意して先ずおこなったのは、取引会社の仕入れ先と納入先へ損害を与えないために、現況を詳しく説明することでした。
靴下にも春・秋物があります。シーズン途中での終業が難しいことから、納入先と協議して定番品に傾注した生産体制が提案されました。次にそれに見合う原糸を確保する課題も解消され、半年の期間内とする終業計画が設定できました。
さらに銀行の協力が最重要な課題でした。銀行では、毎年の決算報告書から注意先リストにすでに上がっていたようで、廃業は最善の選択肢と思われ計画にも無理がないとして、債務返済・資金調達の協力を受け入れました。

※写真は靴下編み機の主要な構造、ダブルシリンダー機の編込み部です。上下のシリンダーと竿状に配置された複数の糸道が確認できます。



この糸道先端の小さな孔に細い糸を通します。
このピンセットが小さな孔への糸通しを容易にします。



奥まった場所のネジの取付けなどに便利で、今でも重宝して使っています。


話を再度廃業に戻すと、山登りでは引返す勇気が必要と言うように、決断がもう数年遅れた場合には夜逃げの可能性だってあった訳で、その判断は正しかったと思っています。
破産した場合は、差し押さえ手続きが始まると法的な破産管財人に債権処理を委ねるので、状況的に悲惨な現実を味わう。私のように自主廃業しても、それはそれで生産しながら大掃除するようなものです。半年の期限内に生産調整、在庫処分、債務返済、云わば未体験ゾーンの忙しさ、ギリギリの精神状態との戦いでした。それでも仕入れ・売上、双方得意先の方から励ましの言葉は本当に有難く受け止めました。
生き残り競争には敗れたけれど幸いなことに倒産は回避しました。勝ち組になれなかった悔しさよりも、長年ひとつの仕事を通して努力もしたし、工夫したり発明したりと、少しは社会に貢献できたと思っています。
正直なところ、毎月の支払いから解放された安堵感の方が勝っていました。



良いにつけ悪いにつけ、思い出が複雑に詰め込まれた二品です。

キム